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作家小説 / 有栖川有栖
作家小説
有栖川 有栖
幻冬舎 2004-08
(文庫)


作家(とその周辺)を題材に、“気紛れな小説を自由に書いた”というノン・ミステリの作品集です。 作家の生態をフィーチャーし、その飽くなき性、業の深さをなかなかに諷刺を込めて曝していてるのが小気味よかったです。 有栖川さんには、ミステリ書きをいじり倒して喝采を浴びた「登竜門が多すぎる」という名短篇がありますが、あの辺の着想からスピンオフしてるかも? 
百戦錬磨のベテラン編集者に手玉に取られる新人作家の惨めさや、その恨み辛みを根に持ち続ける執念深さであったり、締切に追われる焦燥感や、鳴かず飛ばずの忸怩たる思いの裏に張りついたプライドや・・ 同業者のスランプ情報は蜜の味とか、腕を組んで座った姿勢で身体を前後に揺すりながら話す編集者の威圧感とかね、妙にニヤニヤしちゃいます。
「締切二日前」に登場した作家の没ネタ帳が美味しかったです。 こんなパーソナルな部分を覗かせてもらってるこっちが気恥ずかしくなるくらい御馳走様です。 個人的には「書かないでくれます?」のホラー風味が妖しくて怖くて、一番ゾクゾク来て好きでした。 あと、「サイン会の憂鬱」の狂騒的ホラー風味も気に入ってます。
ウィットと毒がいい感じでブレンドされ、概ね不気味で痛快な空気が流れているんだけど、途中に挟まれた「奇骨先生」と、最終話の「夢物語」がふるっていて、一冊として眺めた時、この2篇のもたらす効果が素晴らしいことに気づかされます。 作家という稼業特有の懊悩に対する辛辣なユーモアを、ジワ〜〜と愛惜の想いにひっくり返してしまうんだから。 読み終えた時の、ちょっとしんみりと優しい余情をキープさせる配分が小面憎いほどに(失礼;;)巧いです。
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でかした、ジーヴス! / P・G・ウッドハウス
[森村たまき 訳] “頭があまりお強いほうではない”お気楽貴族の若旦那パーティに仕える“天下最強執事”のジーヴス。 2人の凸凹コンビが活躍するシリーズです。 1930年刊行の第3作品。 ここまで原本の刊行順に読んでいるので、わたしが読むのもこれが3作目。 知らなかったんですが、4作目以降は長編の大海原へ漕ぎ出すそうで、短篇集はこれが最後らしいです。 えぇぇぇ>< まだまだ短篇が読めるものと思っていたので大ショック。 勿論、長編も楽しみですけど・・
今回は、パーティの肖像画をスープのポスターとして売り込むジーヴスのセンスに完敗しました。 悪魔的天才の仕事です。 この、気に入らないものは徹底的に排除する容赦のなさがジーヴスのジーヴスたる所以かもね。 “あなた様のゴルフクラブをもちまして・・”にはびっくりしたー。 こんな荒業までもがレパートリーなのですかジーヴス! 一方、パーティの秘密兵器はといえば“発光ウサギ”ですからね(笑)
アガサ伯母さんにダリア叔母さん、ジョージ伯父さん、ウィッカム譲、悪友のビンゴ、シッピー・・などなど、副キャラも賑やかに出揃っています。 中でも、タッピー・グロソップへの仕返し譚が再三描かれていて、バカバカしいなりに2人の関係性が厚みを持って見えてくるのが、意外と素敵だったりして。 天敵といえども、ウースター家の血を振い起こして友人の窮地を救おうと火中に飛び込んでしまうパーティの、低レベルなりの歯痒い立場が微笑ましい。
あとね。「ジーヴスとクリスマス気分」がお気に入りです。 サー・ロデリック・グロソップに対してバーティは、永遠に墓穴掘りを続けるのでしょうかねぇ。ふふふふふ。 自身の浅知恵と、ジーヴスによるアシストとの相乗効果によって、どこまでもズレ合う悩ましい2人が良いお味w
前作の(ジーヴス視点の)最終話で、ジーヴスの・・いけない本性(笑)を垣間見てしまったので、バーティがスープに浸かって、虫けらの恥辱を思い知っている様々な場面で、背景に退いて放置プレイに耽る(笑)ジーヴスのドSっぷりが透けて見えるようで、いっそう楽しめました。
求愛にかまけた性懲りもない空騒ぎを中心に、不測の厄介事として描かれるエピソードの余りのアホらしさ。 これを記憶に留めておくのは非常に困難なのが残念なんですが、そのお気楽さ、頭を空っぽにして読める掛けがえのなさ、作品そのものがプラクティカル・ジョークを地でいくみたいなスピリットが大好き。


でかした、ジーヴス!
P G ウッドハウス
国書刊行会 2006-07 (単行本)
関連作品いろいろ
★★
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巨匠の選択 / アンソロジー
[ローレンス・ブロック 編] 英米の短篇ミステリの名手9人に、自らの自信作と、こんな作品が書けたらと思う他作家のお気に入り作を一篇ずつ選んでもらって、コメントとともにセットで紹介するという、ユニークな趣向のアンソロジー。 二作を並べてディスプレイすることで、読者としての作家が持つ独自の視点が垣間見え、インスピレーションの源や、核としたいテーマが奈辺にあるのかという問いへの一つの答えが示されていたようにも感じられ、興味深い編纂コンセプトでした。
で、結果、英語圏の選りすぐりの短篇が十八篇そろえられており、人間の本質を追求しようとする(ミステリでは括りきれない)犯罪小説をメインとしながらも、本格風味、ピカレスク・ロマン、サイコ・サスペンス、ハードボイルド、奇妙な味、怪奇幻想系、純文学風・・と、豊かで多様なショーケースぶりが遺憾無く発揮されておりました。
父と息子、母と息子、暴力、人種、ダウンタウン、ギャング、ドラッグ、ギャンブル・・ 英国より米国作家中心のセレクトなので、アメリカの社会風俗を巧みに写し取った作品が多かったのが印象的です。
ただね、個人的な好みはというと、ひたひたと迫り来る破局を待つ静けさが、息が詰まるほど甘美で狂おしい「八月の熱波」なのだよね。 もう何回読んだかわからないけど大好き。 ヴィクトリア朝気質な双子の老嬢の話「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」もお気に入り。 自身を律する物差しの極端さが滑稽で皮肉な物語を支えている飛びきり洒脱な一篇。 それと、“思考機械”の異名を持つS・F・X・ヴァン・ドゥーゼン教授を主人公にした短編シリーズの一作で、古典ミステリの銘品「13号独房の問題」をやっと読めた! 殺人事件ものではなく、純粋に密室からの脱出を扱ったイリュージョンものと言いましょうか。 密室の謎が何故いまだに人をワクワクさせるのか、その答えがここにある気がしました。
ショート・ショート風「いたずらか、ごちそうか」のブラックな切れ味もオツです。 これ、ハロウィンを題材にした1975年初出なのだけど、イギリス人の保守的一般ピープルが、“アメリカの不健全な風習をやたらに取り込んでは困る”とか言って苦虫を噛み潰してるんだよね^^; ちょっ、あんたらの国近辺起源でしょw と思っちゃったんですが、ポピュラーな民間行事ってわけじゃなかったんだね。 ケルト系の移民からアメリカに伝播して、アメリカで大きく育ってから逆輸入みたいな感じなのかな。 関係ないけどヘぇーって思った。
・・と、どうしてもイギリス贔屓になってしまいますが、単なる好みであって優劣の問題ではありません。 断じて。 「第二級殺人」は、恐ろしく抑圧的で負荷のかかる読み心地。 カタルシスと思いきや、少年にとって支配される相手が変わったにすぎないことを読者に認識させる最後のひと台詞に打ちのめされる。 社会の中の孤独というものの在りようを痛烈に描き、読む者を立ちすくませる「青いホテル」が、ちょっと群を抜いているように思えたのと、1920年代のジャズ・エイジな空気を発散させた「ウェディング・ギグ」の得も言われぬノスタルジーも忘れ難いです。また、「くたびれた老人」は「幻の女」の解説を読んだ身には、胸の熱くなる格別な一篇でした。

収録作品
【スティーヴン・キング】
ウェディング・ギグ / スティーヴン・キング(山本光伸 訳)
第二級殺人 / ジョイス・キャロル・オーツ(小尾芙佐 訳)

【ピーター・ラヴゼイ】
ミス・オイスター・ブラウンの犯罪 / ピーター・ラヴゼイ(中村保男 訳)
悪党どもが多すぎる / ドナルド・E・ウェストレイク(木村仁良 訳)

【ハーラン・エリスン】
くたびれた老人:コーネル・ウールリッチへのオマージュ / ハーラン・エリスン(澁谷正子 訳)
13号独房の問題 / ジャック・フットレル(押川曠 訳)

【エド・ゴーマン】
血脈 / エド・ゴーマン(池央耿 訳)
青いホテル / スティーヴン・クレイン(藤田佳澄 訳)

【ジョーン・ヘス】
もうひとつの部屋 / ジョーン・ヘス(藤田佳澄 訳)
いたずらか、ごちそうか / ジュディス・ガーナー(山本俊子 訳)

【ジョン・ラッツ】
法外な賭け / ジョン・ラッツ(藤田佳澄 訳)
八月の熱波 / W・F・ハーヴェイ(田口俊樹 訳)

【ビル・プロンジーニ】
魂が燃えている / ビル・プロンジーニ(黒原敏行 訳)
ソーセージ売り殺し / べンジャミン・アペル(澁谷正子 訳)

【トニイ・ヒラーマン】
ガス処刑記事第一信 / トニイ・ヒラーマン(井上泰雄 訳)
さらば故郷 / ジョー・ゴアズ(大井良純 訳)

【ローレンス・ブロック】
どこまで行くか / ローレンス・ブロック(宮脇孝雄 訳)
木立の中で / ジョン・オハラ(田口俊樹 訳)


巨匠の選択
アンソロジー
早川書房 2001-09 (新書)
関連作品いろいろ

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憑かれた鏡 / アンソロジー
[副題:エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談][柴田元幸 他訳] 挿絵と編集をエドワード・ゴーリーが担当した英国怪奇小説のアンソロジーで、セレクトされているのは19世紀後半から20世紀前半頃に発表された作品。 テクノロジーの敷衍によって非科学的なものが駆逐されつつある最中だからこその、やむにやまれず募っていく神秘への憧憬にも似た・・ 独特の芳しさを持つ時代ですよね・・ふぅ。 格調と超常の不思議が融合して輝きを放ったまたとない潮合いに生まれ落ちた贅沢品を堪能。 ゴーリーのモノクローム線画がいっそうの世界観を際立たせます。
特に終わり方の雰囲気と余韻に共通性が感じられる気がしました。 ざわざわと心許なくなるような索漠感というか、漂然とした侘しさというか・・ そんな感覚に一番強烈に襲われたのが「八月の炎暑」で、もう、堪らなく好きです。
得体の知れない古の引力が作用している家モチーフが数篇入っていて、その中では「判事の家」がお気に入り。 埒外の無慈悲な邪悪さ、静止した空間を苛む恐怖の膨張に眩暈がしました。 家の呪縛ものとはちょっと違うんですが、古風なホテルの怪しさに惹き込まれた「豪州からの客」も美味。 “寒い霜の朝”から“雨と霧の夜”に変容するわらべ唄がゾクっとくる。
生活空間に侵入してきた不可解で掴みどころのない禍々しい気配に、どんどん脅かされて囚われていくような・・ やっぱり、根底に感じるのは“幽霊”というより“悪魔”の存在かな。 そこここに潜み、揺曳している理不尽な“悪魔”が香り高いのです。
名作「猿の手」は言わずもがな。 マッドサイエンスと滑稽味が奏でるハーモニーが最高だった「死体泥棒」もよかったし、「古代文字の秘法」の魔術的な妙趣も味わいがありました。 ハズレなし!

収録作品
空家 / A・ブラックウッド (小山太一 訳)
八月の炎暑 / W・F・ハーヴィ (宮本朋子 訳)
信号手 / C・ディケンズ (柴田元幸 訳)
豪州からの客 / L・P・ハートリー (小山太一 訳)
十三本目の木 / R・H・モールデン (宮本朋子 訳)
死体泥棒 / R・L・スティーヴンスン (柴田元幸 訳)
大理石の躯 / E・ネズビット (宮本朋子 訳)
判事の家 / B・ストーカー (小山太一 訳)
亡霊の影 / T・フッド (小山太一 訳)
猿の手 / W・W・ジェイコブズ (柴田元幸 訳)
夢の女 / W・コリンズ (柴田元幸 訳)
古代文字の秘法 / M・R・ジェイムズ (宮本朋子 訳)


憑かれた鏡
 −エドワード・ゴーリーが愛する12の怪談−

アンソロジー
河出書房新社 2006-08 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★
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