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物しか書けなかった物書き / ロバート・トゥーイ
[小鷹信光 他訳][法月綸太郎 編] メジャーな成功とは縁遠くも目利きのファンに愛されたという異才、トゥーイの本邦オリジナル短篇集です。 “悲運の作家”などと評されることがあるようですが、そんな異名もトゥーイにあっては眩しい勲章のように感じられてしまうのは何故だろう。
奇想に富んだ短篇小説のスペシャリストですが、その、ナンセンスでオフビートな作風の基軸をなすのはクライム・ストーリー。 作品ごとに意表を突く多彩な癖球を投げ分けてくれるのに、気がつけばあれ? どれもクライム・ストーリーを逸脱していないんだね。 そんなところにも、ふと、職人気質的な頑固さが垣間見える気がして。
どの作品にも不条理感がそこはかとなく漂います。 振り回される人々の徒労や葛藤や諦念が、ユーモアとペーソスで彩なされていく。
社会の底辺で苦境に立たされ、ドロップ・アウトの境界線上を綱渡りしているかのようなダメダメな登場人物たち。 孤独で荒涼とした、それでいてどこか滑稽な悲哀というのか、むしろいっそ、悲哀を剥奪された悲哀とでもいうのか・・ だけど、彼らによせる作者のさり気ない共感や愛着のせいか、そっと愛おしい肌合いが紛れ込んでいて、思わぬ瞬間キュンと胸熱に・・そんな場面が何度もありました。
一番好きだったのは幻想小説の趣きの強い「墓場から出て」。 収録作品中、最も陰鬱なホラーなんだけど・・惹き込まれました。 回復ではなく執行猶予のような息苦しさに曝されながら、トワイライト・ゾーンを揺曳する剥き出しの魂。 それでも生き延びているしぶとさと倦怠が、爛れそうなくらい沁みてきて。
あと、アル中の三文作家が書き続けているハードボイルド小説の主人公が、お払い箱にされないために必死に延命策を講じる「いやしい街を…」が大好き。 “ここ三作ばかり一粒の飯も口にしていない”とかボヤいてたり、クスクス笑いながら読んでるうちに、生き延びようとする健気さが段々切なくなってきて・・わたし的に胸熱度No1でした。 あっ、No1はやっぱ「八百長」かなー。悩む>< ツイストの効いた作品群の中にあって、巧まざる文芸として不滅だと思った。 素晴らしかった。 主人公へのシンパシーが訳もなく疼いて、ラスト、ふっと笑って、ポロポロ泣けて・・
ていうか、全ての短篇がレベル高すぎ! “偶然警報発令中”的な物語の拘束性をグロテスクに皮肉った「階段はこわい」とか、奇天烈な超感覚で小説家を揶揄ってみせた「物しか書けなかった物書き」とか、30年代黄金期探偵小説へのオマージュにして、EQMM編集部まで特別出演させてしまった「犯罪の傑作」とか・・
「支払い期日が過ぎて」もお気に入り。 杓子定規を振りかざしてずかずか踏み込んで来る法律や権威を手玉に取った言葉ゲーム(叙述トリックですね)が小気味よい超絶報復譚。 似た着想の名品がリッチーにもありますね。ふふ・・楽しい。


物しか書けなかった物書き
ロバート トゥーイ
河出書房新社 2007-02 (単行本)
関連作品いろいろ
★★★★
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学ばない探偵たちの学園 / 東川篤哉
“探偵小説研究部”ではなくて“探偵部”(笑)のお気楽部員3人組と、顧問の生物教師(実験器具で美味しいコーヒーを淹れる名探偵・・)が、私立鯉ヶ窪学園で起こる殺人事件の謎解きに挑む学園ミステリ。 既にシリーズ化されていて、その1作目に当たる作品です。 ゆるゆるグダグダのユーモア観は、もはや著者の真骨頂といった形容が相応しいかもしれませんね。
事件は、我らが探偵部の目と鼻の先に突き付けられた重大な挑戦状である。 探偵は犯人を選べないが犯人は探偵を選ぶものであり、我々はこの大変な名誉に応えなくてはならない。 探偵の使命と存在証明を果たすべく・・(以下略)とばかり、やる気満々のウザさが弾けています。
「謎解きはディナーのあとで」の舞台が確か国立で、こちらは国分寺。 本格原理主義者の“多摩川部長”とか、京王線や小田急線の駅名が小ネタで盛り込まれていたりとか、なんともローカルなホットスポットだね^^
んー、ただ最近、どうも学園モノのライトなテンションについていけてないといいますか、ややもすると隔意を抱いてしまう傾向がありまして・・ ちょっとノリとかキャラとか肌に合わなかったかなぁ。 東川さんは烏賊川市シリーズがお気に入りなので、あちらをメインに追っていこうと思います。
でもトンデモ物理トリックのおバカっぷりには楽しませてもらいました。 立て続けに起こる殺人は共に密室の謎解きが命題で、どちらの密室も恥ずかしいくらいに、ちょw やり過ぎw ふざけやがってw ってところがツボです。 本格のトリックは基本こうでなくちゃ派なもので^^; その分、学園のちょっとリアルに生々しい部分とは若干ミスマッチになってしまってましたけども。
探偵部員によるミステリ談義(テーマは密室!)が面白かったです。 作家や読者のためではなく、あくまでも探偵のための〜ということでクローズアップされるのが犯人の行動パターンによる密室分類・・ふふ。あるある〜。


学ばない探偵たちの学園
東川 篤哉
光文社 2009-05 (文庫)
関連作品いろいろ


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このペン貸します / ローラ・レバイン
[副題:ジェイン・オースティンの事件簿][石塚あおい 訳] 著者はテレビドラマの脚本を手掛けてきたコメディ・ライターだそうで、本編は彼女のミステリ作家としてのデビュー作に当たる長篇作品。 本国アメリカでは2002年に刊行されて以来、シリーズの続編が次々と生まれているみたいなのだけど、邦訳は今のところこの一作品のみ。
ビバリーヒルズの庶民エリアでフリーライターとして生計を立てる妙齢のバツイチ女性を探偵役に据えたミステリで、フェミニンな空気が濃厚に漂っています。 お分かり通り、かのジェイン・オースティンものではありません。 英国贔屓の母親(スペルが苦手)が、ジェイン・オースティンに因んで名付けたものの、本家の“Jane”ではなく“Jaine”になってしまったというオチの同姓同名アメリカ人現代女性がヒロインです。 こんな設定からも窺えるとおり、軽快で洒脱なユーモアが随所に散りばめられており、都会の自立した女性の日常風景が、必須アイテム的固有名詞をふんだんに混えながら活写されています。 本編のジェイン・オースティンは、18世紀から19世紀イギリスの平凡な日常を鋭く描破したかのジェイン・オースティンの現代版という文脈で描かれている節もありそうです。 個人的には現代版ジェインのユーモアは、けっこう毒がきつめというか、ちょいちょい辛辣だなぁと思った次第。
ジェインが代筆したラブレターがきっかけで殺人事件の容疑者にされてしまった非モテ系青年の無実を晴らそうと、素人なりのあの手この手で事件の真相を探り始めるものの、決め手を欠く怪しい人物が次々と現れーの、ロマンスありーの、愛猫かわいがりーの・・という感じで進んでいきます。 ミステリを読み慣れていると、なんとなく気づいてしまうかもしれませんが、真相へ至るまでのミステリとしてのプロットや物語としての経緯や、一人称の語りそのものが楽しいので飽きずにすいすい読めてしまいます。 でもやっぱ女性向けかなぁ。 わからん。 意外と男性にも需要あるのか?!



このペン貸します
 ― ジェイン・オースティンの事件簿 ―

ローラ レバイン
集英社 2005-02
(文庫)

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