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ぶたぶたの休日 / 矢崎存美
東京には山崎ぶたぶたが出没するのが自慢です♪ そろそろ逢えないかなぁ〜(と思いたい)。 いやいや、すけべぇ心があるうちはダメかも(とか思いたい)。 これはシリーズ第3弾。
ぶたぶたは喋るけど、動くけど、やっばり“ただのぬいぐるみ”なんだよね。 自分の分身のような、鏡のような存在なのかもしれない。 円らなビーズの点目に語りかければ心にストンと応えが届く。 涙を拭えば手の先っぽの濃いピンクの布貼りやムクムクとした鼻先を濡らしながら拭き取ってくれる。 抱きしめる時、抱きしめられている・・
ぬいぐるみファンタジーというのか、具象化されたぬいぐるみに託した作者さんの想いというのは、見事なまでに自浄作用に集約されていて、ぶたぶたがぶたぶたであることの必然性がジワ〜ンと伝わってきます。 何でもないけど凄く特別で、凄く特別だけど何でもない存在・・そんなニュアンスがいい感じで香ばしさを増しています。
ある時は見習い占い師、ある時は定食屋の従業員、ある時は助っ人刑事・・と、ぶたぶた属性が変わるごとに、また一人、都会の片隅の寂しん坊がほっこりと温もるのです。 そしてわたしのハートまで。
一方、メイン短篇群の合間に挟まれるようにして「お父さんの休日」と題された、普通の家庭のお父さんの休日バージョンのお話が少しずつ進行していきます。 図らずも(果たして?)煤けたピンクのぶたのぬいぐるみと遭遇してしまった主婦やら高校生やら職業人やらがリレーで、プライベート編ともいえそうなぶたぶたお父さんの一日の生態をウォッチングしていく格好。 ニアミス加減が楽しい楽しい。 ちょっとベッドタイム・ストーリー的な即興感もあって。
ぶたぶたが中年のおっさん(意外と声が渋いw)なのってちょっとどうなのぉ〜? という気に全然させないばかりか、無類のチャームポイントに仕立ててしまうところに矢崎さんのセンスを感じるし、この辺にもシリーズ成功の鍵が隠れているかもね。


ぶたぶたの休日
矢崎 存美
徳間書店 2001-05 (文庫)
関連作品いろいろ
★★
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衣裳戸棚の女 / ピーター・アントニイ
[永井淳 訳] 兄のアンソニーは探偵劇「スルース」、弟のピーターは「アマデウス」で知られる英国の双子の劇作家シェーファー兄弟は、探偵小説の愛好家でもあり、若い頃(1950年代)に合作ペンネームのピーター・アントニー名義で、数編の探偵小説を著したそうです。 本編はそのうちの一作で、1951年の長編作品。 古典ミステリは少なからず舞台劇めいた雰囲気がありますが、本編はやはり本家なだけあって、その感慨がひとしお。
二転三転する展開を織り込みながら、手の込んだプロットをきっちりまとめ上げたバリバリのパズラーものです。 戦後の密室ミステリの中でも屈指の作品と言われるだけあって、ユニークな状況設定と独創的なトリックが稚気溢れていて楽しかったです。 こんな「探偵」が犯人パターンもあるんですねー! ユーモアミステリだからこそ、この“オチ”が生きるんだろうなぁ。
サセックス州の海浜の保養地の、目抜き通りの外れに建つシーサイドホテルが舞台です。 探偵役はこの田舎町の高台の“ペルセポリス”と命名した白亜の別荘に住む長身巨漢の老人ヴェリティ氏。 現役最高の素人探偵を自認し、スコットランドヤードも一目置く存在であるヴェリティ氏は、古代地中海文明の古美術マニアで、別荘はコレクションの彫像で埋め尽くされています。
このヴェリティ氏が、ある夏の朝、ホテルの二階の窓に奇妙な光景を目撃することでミステリの幕が上がります。
窓から入りドアから出た男と、ドアから入り窓から出た男がいたにもかかわらず、なぜかドアも窓も鍵がかかった密室状態となったホテルの一室には、血塗られた射殺死体と衣裳戸棚に押し込められた美女が閉じ込められていて・・ 怪しい仮面の男や自称リチャード四世まで登場し、極めて疑わしい容疑者から始まり、調べれば調べるほど増えていく容疑者がいるのに、不可能犯罪の牙城は容易く崩れることはなく、仮説の試行錯誤が繰り返されていきます。
悠揚としたテンポで進む、洒脱な探偵遊戯ものなので、リラックスした時間のお供にぴったりだと思いました。 時を経ていっそう香り高いヴィンテージ感がいいなぁ。 E・C・ベントリーの息子のニコラス・ベントリーによる風刺画チックな味のあるイラストも、ご機嫌な雰囲気作りに一役買っています。



衣裳戸棚の女
ピーター・アントニイ
東京創元社 1996-12
(文庫)
★★
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キリオン・スレイの生活と推理 / 都筑道夫
昭和47年刊行の連作短篇ミステリ。 シリーズ三部作の一作目です。 雑誌編集者、翻訳家、評論家と、多彩な功績を残され、推理作家としても数々の名シリーズを世に送り出された都筑さんですが、このシリーズは案外マイナーなのかなー?
東京にやってきて、友人の青山富雄(トニイ)の家に居そうろうを決め込んでいる、ヒッピー風の鬚づらのアメリカ人青年・・ 自称、前衛詩人のキリオン・スレイの怠惰な生活と粘り強い推理。
殆ど何もしないで遊んでるけど、好奇心だけは旺盛で、およそ芸術家らしからぬ論理癖を発揮して、遭遇する事件に首を突っ込みたがっては、置そうろうのトニイを通訳要員で引っ張り回します。 もう一人の常連、四谷署の天野部長刑事からは徐々に一目置かれる存在になり、遂には、“アングラ版シャーロック・ホームズ”との呼び声も?!
いやー地味ですなぁ。 終始“驚き”ではなく“説得”だから。 トリックよりもロジック重視を提唱する著者の面目躍如とも言えるんだろうけども。
「なぜ自殺に見せかけられる犯罪を他殺にしたのか」とか、「なぜ完璧なアリバイを容疑者は否定したのか」とか、 章タイトルが全て設問式になっていて、探偵キリオン・スレイが、各篇毎に論理的解明を与えていくスタイルからは、不可思議な状況の“何故?”に拘り抜いた丹念な姿勢が伝わってくるようです。
半熟日本語がもたらす“外国人であることの面白さ”は時々顔を覗かせてくれるんですが、“詩人であることの面白さ”が残念なことに不足しておりました。 せっかく前衛詩人(笑)なのだし、そこをもっと欲張ってもいいのに・・とか思っちゃうのは、昨今のキャラ重視路線に自分がすっかり毒されてるからかしら;;
冒頭で、手擦れてくたくたになった女子大生のバッグを“リズムが脱皮したコンガの抜けがら”なんて評してたのが振っていて、作中の彼女もわたしもクラッときたんだけど、それっきり鳴かず飛ばず^^;
サイケデリックで淫猥でアンニュイで・・それでいてインテリジェンスな70年代頃の空気が芳しかった一篇目と、百物語趣向のラストのオチが気が利いていた最終篇あたり、印象に残ってます。


キリオン・スレイの生活と推理
都筑 道夫
角川書店 1996-10 (文庫)
都筑道夫さんの作品いろいろ

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