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みまわりこびと / アストリッド・リンドグレーン
みまわりこびと
アストリッド リンドグレーン
講談社 2014-10
(単行本)
★★★★

[キティ・クローザー 絵][ふしみみさを 訳] 「長くつ下のピッピ」の作者リンドグレーンが書いた、スウェーデンの妖精トムテのおはなし。 トムテはスウェーデンのサンタクロースともいわれる農家を守る妖精で、北欧ではお馴染みの小人なんだって。
このおはなしのトムテも、とある農場の納屋の片隅にずっと昔から棲み着いている家つきの妖精さん。 トムテについてうたった古詩をもとに1960年代初頭に書かれた童話だそうです。 なんと最近まで埋もれていたのだとか。
アストリッド・リンドグレーン記念文学賞受賞作家のキティ・クローザーが絵を添えて。 澄んだ冷気と灯し火 の明かりに包まれているような・・ 慈しみ深い世界を宿した絵本として蘇りました。
森に囲まれ、雪に閉ざされた農場の、しんと更けた夜。 冬の長い国に暮らす人々や動物たちの眠りを、年をとった小人がそっと見守っています。 小屋から小屋へ、足音を忍ばせて、夜毎の見まわりを欠かしません。 耳には聞こえない小さな言葉のぬくもりは、凍てつく静寂の中に、みんなの夢の中に沁み渡っていくようです。 夏に備えた豊かな眠りであるように・・と、ささやき続けています。
冬は きて、また さっていく もの。
夏は きて、また さっていく もの。
こうやって厳しい冬を受け入れてきたんだなぁーって。 自然への畏敬を底流した民話の持つ力強さがしっかりと伝わってきて、震えるくらい素敵だった。
小人への感度はやっぱり動物たちの方が良好です。 姿も見えてるみたいだし、耳には聞こえない小人の言葉もちゃんとわかります。 人間の子供なら見えるかもしれないし、わかるかもしれないのだけれど、
子どもは 夜、ぐっすり すやすや ねむる もの。
なので、確かめることができないのです。 でも、朝になって雪にてんてんと残った小さな足あとを子供は見つけることができるし、 大人にだってできる。 たとえ見つけられなくても、そんな子供時代を過ごした大人なら、もちろん小人がいるのを知っています。 見えない小人がひっそりと棲める納屋を心の奥にこしらえてあるのです。 つつがない日々の暮らしへの静かな祈りを込めて。
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ニュー・ゴシック / アンソロジー
ニュー・ゴシック
− ポーの末裔たち −

アンソロジー
新潮社 1992-09
(単行本)
★★

[副題:ポーの末裔たち][鈴木晶・森田義信 編訳]  現実の中の隠れた部分に積極的にこだわる現代小説を“ニュー・ゴシック”と位置づけ、そのコンセプトのもとに集めた11篇。
20世紀後半の60年代から80年代頃、主としてアメリカで上梓された作品のセレクトですが、読みたいと思いながら読めずにいるメジャー作家から、まったく名前も知らない(翻訳も殆どされていない)掘り出し作家まで、鮮度の衰えを感じさせないラインナップでした。 異色なアングルに満ち、瘴気とエレガンスが立ち込める不穏な空間は、それぞれに極上風味でありました。
伝統ゴシック小説の別世界的な仰々しさを離れ、広義のミニマリズムとして捉えるべき作品が、本編が提唱する“ニュー・ゴシック”であり、狂気、病、死、幽霊、牢獄、廃墟など象徴的モチーフを継承しつつも、卑近なリアリティと隔絶しない距離感が保持されている印象です。
日常の小さな裂け目から覗く、理性では捉えられない闇の領域、狭義のミニマリズム(ニュー・リアリズム)が、示唆はしてもあえて描かないその呪われた領域を凝視するのが“ニュー・ゴシック”であるという、いわゆる定義のようなものが編訳者によって巻末解説されています。
そしてその対象化できない魔の領域を実体化し、一定の形を与えたのがモダン・ホラーであると。 なるほど、ミニマリズムとモダン・ホラーのあわいを縫うジャンルの独特なポジショニングがスムーズに理解できました。
ニュー・ゴシックにあって、“魔”とは外ではなく内に、現代人の心の中に巣食う何ものかであるのだろうなぁという感慨が湧くだけに、ざわざわとした恐怖や不安と同時に身につまされないとも言い切れないような愛着すら醸し出す作品が多かったように思います。
不合理な展開のなかに衰えゆく生命力を端的に暗示した「他者たち」が特に好みでした。 あまりにも得体の知れないゆえの怖さという点では「敵」のシンプルさが白眉。
時空超越者の“私”による俯瞰的視点が物語を眩惑する「熱病」の、短篇とは思えない濃度とスケールと、迸るヴイジョンに圧倒されました。 生者と死者が分かち難く共鳴する「幽霊と人、水と土」の漠とした抒情もよかったなぁ。
SFベースの「人類退化」は、その奇妙な切り口といい、五感を悩ませる気持ちの悪さといい、含み笑いが底流していそうな抑えたユーモアといい、作者の他作品が俄かに気になり出しています。
アメリカに渡り学者として成功を修め、ヴェネチアに帰郷した老ピノッキオが、魔都さながらの故郷を彷徨する「暗殺者の夜」は、2012年に邦訳された長篇「老ピノッキオ、ヴェネツィアに帰る」の第1章に当たるという理解でいいのかな? コッローディの「ピノッキオの冒険」のパロディにもなっているらしく興味津々なのですが、まずは本家を再読しないことには;;
もっとも狂気らしく狂気を扱っていたと思える「監禁」は、思考の詐術にひっかかるがごとく無意識に脳内構築していた全体像がグラっと歪むラストの驚きに妙味がありました。 もっとも“そこ”が企みの核心だったかは定かでない。
掉尾を飾る「ブラック・ハウス」は、体裁こそ極めてゴシック調ですが、その実態は怪異の介在しないサイコ・サスペンス・・なはずなのに、核を成す人間心理の抽出が圧巻で、名付けようのない“魔”の幻影が生々しく匂い立ちます。

収録作品
他者たち / ジョイス・キャロル・オーツ(鈴木晶 訳)
監禁 / パトリック・マグラー(森田義信 訳)
懐かしき我が家 / ジーン・リース(森田義信 訳)
人類退化 / T・コラゲッサン・ボイル(森田義信 訳)
敵 / アイザック・B・シンガー(鈴木晶 訳)
暗殺者の夜 / ロバート・クーヴァー(森田義信 訳)
北へ / メイヴィス・ギャラント(森田義信 訳)
牢窓 / ルイス・スタントン・オーキンクロウス(鈴木晶 訳)
幽霊と人、水と土 / ウィリアム・ゴイエン(鈴木晶 訳)
熱病 / ジョン・エドガー・ワイドマン(鈴木晶 訳)
ブラック・ハウス / パトリシア・ハイスミス(鈴木晶 訳)
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闇のしもべ / イモジェン・ロバートスン
闇のしもべ 上
闇のしもべ 下
イモジェン ロバートスン
東京創元社 2012-09
(文庫)


[副題:英国式犯罪解剖学][茂木健 訳] 18世紀後半を舞台にしたジョージ王朝時代ミステリ。 ゴシックと冒険活劇をミックスした重厚にして絢爛たるエンタメ仕立てで非常に読みやすかったです。
イングランド南部ウエスト・サセックスの田園地方で連続して起こる怪死事件の謎を追う厭世家の解剖学者クラウザーと才気煥発な海軍提督夫人ハリエットの眼前に立ちはだかるのは、広大な領地から周囲を睥睨する大貴族サセックス伯爵家。
その伯爵家を出奔し、ロンドンで楽譜店を営む嫡男一家が“ゴードン暴動”の最中に見舞われる惨事と、アメリカ独立戦争にイギリス陸軍士官として従軍した伯爵家次男のボストンでの体験が同時進行で物語られます。
これら各要素が終盤で一つに収斂されていく構成ですが、そこに想像を超える真相は見い出せないものの、予定調和な物語として存分に楽しめるプラスアルファの素地が光る作品でした。
貴族の腐敗、ブルジョア中産階級の台頭、貧困層の鬱積、自然科学思想や進歩思想の胎動・・ フランス革命が間近に迫るアメリカ独立戦争の最中にあり、植民地支配や産業革命の余波に揺さぶられる英国社会の、様々な光と影が投げかけられています。
特に転換期の世相を反映した階級の流動性や、逆に非流動的な目に見えない桎梏が浮き彫りにされるなど、各々の属性を与えられた登場人物のパーソナリティーに陰翳を刻む微妙な書き分けが達者。
“英国式犯罪解剖学”と副題にありますが、小難しい蘊蓄ものではなく、全体から漂うムードを総称したキャッチコピーなのでしょう。 言ってみれば科捜研や検視官ものの最初期バージョン的な立地にある作品であり、当時の医学や解剖学のレベルに準じて死体に残された殺人の痕跡を探る方法も読みどころではあるのですが、それ以前に、確証が得られない限り何も信じてはいけないことは不道徳な哲学者の警句であり、すべての人間が平等であるという思想は誤りであり、“町の外からやって来た行きずりのならず者の仕業”で一件落着してしまうような治安判事の捜査や王室財産管理官の審理がまかり通る時代にあって、自然科学の神に仕える“闇のしもべ”となり真実を究明しようとするイノベーティブな衝動が眩しかったです。
我らがクラウザー氏は、実在の外科医ジョン・ハンター博士の弟子という設定で、案の定ちょっとした変人扱い案件なんですけど、その辺のグロとユーモアの配分も巧いのです。
プロローグ感たっぷりなシーンをエピローグに使うセンスが新鮮。 全てが終わったカタルシスの中で眺めるこのシーンには名状し難い痛みがあります。 ヒュー視点でのレイチェル観がおそらくここで初めて明かされていたと思う。 ヒューとレイチェルの悲恋の物語としてもう一つのプリズムが反射し、煌めいた心地がしました。
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歪笑小説 / 東野圭吾
歪笑小説
東野 圭吾
集英社 2012-01
(文庫)


“笑”シリーズの4作目ですが、路線から逸れました。 前作“黒笑”で扱った文壇・出版業界ネタ4連作の続編としてスビンオフした格好の連作集。 アイデア・ストーリーというよりも、物語性重視の人間ドラマ趣向。 笑いがないわけじゃないけれど感動ベースへと狙いが大きくシフトしています。 ジャンル的に好みなのは前3作だけど、出来としては本作が一番いいのではなかろうか。 やっぱり東野さんはこのスタイルの書き手なんだなと。
理想と現実の間で苦悩する新人作家と編集者のドタバタコメディ。 本好きなら心躍らせずにいられない・・はず。 しかしなんとも新鮮味が感じられない。 最近の作品なのに、この昭和のオヤジが書きました的な臭さはなんなの? わざとなの? と、げんなりしながら読み進めていくも、ノリに慣れて登場人物に愛着が湧き出すと、段々楽しめるようになっていく。 やはり流石です。 でも、“わざとなの?” という冷めた思いは最後まで消えなかった。
エンタメ界の新鋭、唐傘ザンゲ作の本格不条理ミステリ「虚無僧探偵ゾフィー」がリトマス試験紙になってて、良さがわかれば意識高い系、わからなけれが低い系みたいなレッテルが登場人物に貼られてたけど、それと売れる売れないはまた別の話だぞと。 所詮、本篇だって売れてナンボ。 どうせこの程度が読者のお好みなんだろ? と、ページの向こう側から挑発している作者の顔がちらつかなくもなくて。 そこに“歪笑”なる企みの核心があったんじゃないかとさえ薄々思ってしまった。
業界周辺の卑俗なあるあるネタやお馴染みの裏事情など、切り口は多彩だし、トンデモ脚色がどのくらい真実を孕んでいるかいないか、想像を巡らせるのは愉快でした。 そしてこの連作集、モデルが頭をよぎりそうな属性やネーミングがいろいろ出てきて擽られる。
警察小説の大御所である玉沢先生は大沢在昌さん? ハードボイルドをおちょくってる埋め合わせでもありそうだけど、相当にかっこいい役どころ^^ 伝説の編集長やら、美し過ぎる新人担当編集者やらにも頭をよぎる某対象がいたりするのかな。
個人的には、臭いハードボイルドもどき小説「撃鉄のポエム」でデビューを飾った熱海圭介氏がお気に入りなのだけど、東野さんに虐められ過ぎてキャラが変わっちゃったのが残念。 勘違い野郎のままぶっちぎり続けて更なる高みへと邁進し、誰も到達できない“ギャグ小説”の境地を切り拓いて欲しかったわ。 リアリティが要求されるドラマ路線に舵を切ってるから仕方ないのかな。 唐傘ザンゲ氏をなんでもっと癖キャラにしなかったんだろう。 マトモな良い子過ぎてつまらん。 まぁこれも、感情移入の出来るキャラを必要とするドラマ路線に・・以下略。
「ミステリ特集」がマイベスト。 辺りを見回し声を潜めて編集者にさぐりを入れる熱海氏のとあるセリフがツボw オチの捻りも最高。 前作に登場した寒川先生のその後を描く一篇「引退発表」は、愛ある茶番劇が醸し出す滑稽味と哀愁がいい感じ。 作品の一部をなす「巻末広告」でさりげなく明かされている更なるその後の消息に微苦笑。 寒川先生への皮肉とオマージュを混在させたウィットが光ります。
「小説誌」は、業界のタブーに真正面から言及する短篇なんだけど、ラスト、逆切れ&開き直りの感情論に涙の大喝采って・・なにこれ。 むしろこんなオチしかつけようがない(と言いたい)のだと勘ぐれば、出版社の側に立って作家を揶揄った作者の粋を買いたくなる。 それとも何かはぐらかされたのかな・・
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パンダ銭湯 / tupera tupera
パンダ銭湯
tupera tupera
絵本館 2013-08
(単行本)
★★

話題になってたので読んでみました。 大人の感想です。 なんてシュールなパンダ暮らし♪ “パンダ以外の入店は、固くお断りしています”の貼り紙がある“パンダ湯”のヒミツってなんでしょう? 親子パンダの銭湯タイムをそっとウォッチングしちゃいましたってお話の絵本です。
あぁぁぁ・・見てはいけないものを見てしまいました パンダさんたちの淡々とした平常心がまた良くて。 古き良き所帯臭さが醸し出す温かみとの絶妙ブレンドで、独特の世界観が生まれております。
文がほとんど無声に近いくらい削ぎ落とされているので絵の比重が大きい・・ようでありながら、逆にそのシンプルさが際立つんですね。 “チャ! チャ!”がお気に入り。 合いの手の“は〜ぁ パンダ〜ドンドン”がない(笑)
パンダさんたちが混み混みで体を洗う壮観な(?)眺めにアクセントを添える“耳”のアイデアがツボ。 この仕掛け、最終ページではささやかな絵オチも演出することにw
銭湯内の調度に目一杯の目配りがなされていて、クスってなる小ネタを探すのが楽しいです。 外観は昔ながらの銭湯を模した純日本建築で、唐破風造りの堂々たる風格(でも目を凝らすと意匠がパンダ仕様)なのですが、壁絵は富士山じゃないし、湯船のタイル模様も・・ふふ
余談だけど、“パンダの目は実は怖い”って風潮にはちょっと疑問符なのだよね。 垂れ目柄の中にあるから逆に鋭く感じるだけで、普通の熊さんたちと変わらないつぶらなおめめだと思うんですよ? やはりアレを一回やってもらわないといかんね
tupera tuperaさんはご夫婦による物づくりユニットなんだって。 絵本やイラストレーションをはじめ、多方面でご活躍中。 この絵本は、第3回“街の本屋が選んだ絵本大賞“受賞作品です。
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