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アール・デコの挿絵本 / 鹿島茂
アール・デコの挿絵本
− ブックデザインの誕生 −

鹿島 茂
東京美術 2015-05
(単行本)


1920年代前後に登場したアール・デコの豪華挿絵本は、モード・ジャーナリスム隆盛を背景に、優れたイラストレーターや版画職人、裕福な購買層に支えられ、手間暇かけて少部数出版されたため、今日では稀覯本としてコレクター垂涎の的となっている。
本書は、イラスト、活字組版、複製技術、アート・ディレクションが一体となって生まれる総合芸術の魅力を、さながら実際にページを繰るがごとく、表紙から奥付まで、造本上の部位毎に項目をたて、役割や特色を、名作から厳選した実例を添えて解説。また、バルビエ、マルティ、マルタン、ルパップの挿絵本の中から、その世界観をじっくり味わえる傑作をテーマ別に多数紹介。
[副題:ブックデザインの誕生] “鹿島茂コレクション展”で展覧会という方法では紹介し切れなかった、こと“挿絵本”にスポットを当て、あたかもアール・デコの挿絵本を手にする感覚を楽しめるよう構成するというコンセプトのもと、至極丁寧に吟味され、つくり込まれた本です。 すべて鹿島さん所蔵の品々みたいです。 凄い。
以前、小村雪岱の装幀本に魅了されましたが(そういえばあちらも“ToBi selection”でした)、同じ時代の空気を感じます。 そしてパリの美風を。 存在価値がまるで電子書籍の対極にあるみたい。
パリ高級社交界の貴婦人たちのエレガンス、美を直撃するエロティシズム、バレエの演目から触発されたオリエンタリズム・・ さまざまなテーマ別のオール・テクスト(文字を含まない1ページ大の挿絵)と、ヴィニェット・イン・テクストの妙技を紹介するセクションがそれぞれに充実していて圧巻。 本書の華でした。
表紙は意外にも地味なものが多いというのが印象的。 なぜかというと当時はまだ、購入者が独自に装丁を施す“仮綴本”の文化が続いていて、本格装丁時に仮の表紙を外してしまうことがほとんどだったかららしい。
逆に本格装丁で絶対に取り外せない扉(タイトルページ)は、文字情報と組み合わせた凝ったつくりになっていて、デザイナーが情熱を傾ける部位だったそうです。
ちなみに表紙カバーは、ジョルジュ・バルビエ「ギルランド・デ・モワ(月々の花飾り)」第5年(1921)年 より。

以下、備忘録です
【フロンティスビス】
扉と差し向かいのページに描かれたフルサイズの口絵で、物語全体を要約する象徴的なイラストが配される。
このページをしっかり眺めるだけで物語の内容がわかるのがベストとされる伝統的な技法。
【ヴィニェット】
狭義では、写本や古い活字本のブドウ蔓総称文様のこと。
広義では、活字に組み込んだすべてのイラスト。
【ヴィニェット・イン・テクスト】
ヴィニェットの中で、特にテクスト部分と組み合わせるイラスト。
活字時代には、このレイアウトに大変な手間を要し、挿絵本の極致はこの技術にあると言っていい。
【カルトゥーシュ】
印刷においては、本来タイトル回りを飾る囲み枠を指す。 アール・デコの挿絵本では、このモチーフが巧みに用いられた。
【ポショワール】
板目木版とともにアール・デコの挿絵本を支えた伝説の製版技法。 古くから主に壁紙に用いられてきたが、壁紙職人だったジャン・ソデによって現代的な複製技法に転換され、複雑で微妙な色彩の再現に成功。 魔術的技法といわれた。 今日なお、秘法が解明されていない。
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